転倒は、加齢に伴う筋力・バランス機能の低下により高齢者に起こりやすいものですが、認知症高齢者はそうでない人に比べて8倍転倒しやすいと報告されています。病気の症状が原因の1つでもありますが、様々な要因が複雑に絡み合って引き起こされます。今回は、その原因と転倒予防について紹介したいと思います。
①認知症の症状によるもの
記憶障害(歩行の障害があるが歩こうとしてしまう)、見当識障害(時間や場所などわからず歩き回って転倒する)、視空間障害(物の位置がわからずつまずく・ぶつかる)、失認・失行(衣類や履物を正しく着用できないためにバランスを崩して転倒しやすい)、注意力障害(注意深い行動がとれず転倒する)。本人の行動を注意して観察するとともに、危険を予測して対応することで転倒につながる危険な行動を減らすことが出来ます。また、周囲の環境(空間の広さ、ベッドの位置、物を置く場所等)を整えて転倒しやすい環境を作らないということも必要です。
②薬物によるもの
高齢者では若年者に比較して薬物代謝や排泄機能が低下しており、向精神病薬以外でも抗アレルギー薬、降圧剤、抗ヒスタミン薬、糖尿病治療薬、風邪薬なども転倒リスクを高めることがあります。転倒を防ぐ為には飲んでいる薬を本人や介護者がしっかりと把握し、服薬管理を行なうことで適切な量を飲む、本人の様子を注意深く観察して行くということが必要です。
③運動器障害によるもの
高齢者は加齢による筋力低下、バランス機能の低下、反応速度の低下などにより歩行障害が起こりやすくなりますが、認知症の方の場合は①で書いた様な症状も加わり転倒の危険が大きくなります。転倒予防の為には屋内外の歩行訓練をはじめ、バランス訓練、関節を動かす訓練、ストレッチなど運動機能への働きかけが有効です。その他にも、レクリエーションや認知機能面と運動機能面へ同時に働きかけられる活動(絵画、手工芸、音楽、園芸等)なども有効です。
(参考文献:日本認知症ケア学会誌 第15巻第3号)
作業療法士 土屋和嘉子