病院の三階の部屋からは、上田市の市街地が見渡せます。夕暮れ時のオレンジ色の空になる頃、街の光がだんだんと灯って、函館の夜景までの豪華さはありませんが、小さなダイヤモンドが七色の光を発して煌き始めるような美しさで、しばし見とれて眺めることがあります。山々に囲まれた盆地の、平凡な小さな街の風景であると思うのですが、この美しさを見続けている自分にとっては、愛おしい風景となっています。当院の職員が一日の仕事を終えてサーッと帰ってゆくと、病院の中は静けさが残ります。「今日も無事一日が終わった」ことを感謝して、朝からの出来事を振り返り、様々なことをもう一度思い出しながら、改善すべき点を確認しながら、「明日もまた病院が平穏な一日でありますように」「職員のみんなが元気で病院に来られますように」と祈るような気持ちで、真っ暗になった階段を降り、家路につきます。私にとっての幸せな時間とも言えるでしょう。最近もう一つ幸せな時の過ごし方を体験しました。それはドライブに出かけ、美しい景色を前に、しばし車を止めて、少しずつ変化する雲の動きや、空の輝きを眺めながら、クラッシック音楽を聴くことです。モーツアルトのキラキラと散乱する光のような曲を聴くとき、バッハの荘厳で神々しい曲を聴くとき、ベートーベンの苦しみから歓喜に変わる曲を聴くとき、ショパンのピアノの奏でる旋律の美しさを聴くとき、別世界に入るような、心地良さに時間を忘れてしまうことがありました。ささやかなる芳醇な時間、心が癒される時間とは、そういう時間を言うのかもしれません。長い時間を必要としませんが、確かに切り替わる心の波動に、我ながら驚きました。疲れたとき、試してみてください。特に空と雲の動きをゆっくり眺めているのがミソです。
